まず、腱板(けんばん)とは、肩甲骨と上腕筋をつなぐ4つの筋肉の総称で、肩関節を安定させ、動かすための重要な役割を担っています。
この腱板を酷使すると、摩耗するような形で部分的に断裂してしまうことがあります。これを腱板損傷といいます。
腱板損傷のリスクは加齢とともに高まり、50歳以上の4人に1人が発症するとされ、ピークは60歳代です。転倒したり、交通事故で肩を強打したりするなどといったアクシデントのほか、仕事で重いものを持ったり、野球の投球やテニス、水泳などスポーツで腕の頭上運動を繰り返し行う方も損傷することが多いと言われています。
中高年の肩痛では、四十肩・五十肩という言葉をよく聞くと思います。四十肩・五十肩は肩の動きが制限され痛みも伴いますが自然に軽快することが多い一方で、腱板損傷は肩に力が入りにくく動く範囲も狭くなり、放置しておくと損傷・断裂の範囲が徐々に広がって痛みがいつまでも続くことがあるといった違いがあり、早期の診断と適切な治療が必要となります。
肩を動かす際に、腱板の損傷している部分が周囲の骨に当たることによって肩の痛みを生じます。たとえば、
といった疼痛や筋力低下をきたします。また、日常生活において
といったことが思い当たる場合、「しばらくすれば治るだろう」と自己判断をせずに相談していただくことをおすすめします。
腱板損傷では、肩を何度も動かすことによって、損傷している部分と周囲の骨がこすれ合い、損傷および断裂が進みます。転倒や力仕事、スポーツがきっかけで一気に断裂する場合のほか、加齢などが原因で腱板損傷を発症することもあります。
このほかに、近年は遺伝的な要素による発症の可能性も指摘されており、家族歴のある方は通常の人に比べ、発症リスクがあるかもしれません。
腱板損傷・腱板断裂の診療は、整形外科で行います。
40歳を過ぎて肩が痛い、腕が上がりにくいといった上記の症状を感じたら1度受診するようにしてください。超音波検査やMRIで断裂・損傷の程度が分かるので、早期に発見されれば手術を行わずに改善できる期待も高まります。
年齢や職業、肩を使う頻度やどの程度の障害があるかなどを診たうえで、保存療法による治療か手術による治療を検討していきます。通常は保存療法を取るケースが多いですが、損傷の程度が強く、保存療法の効果もあまりない場合は手術によって肩腱板の修復をします。
痛みが強い場合は炎症を抑える鎮痛剤の内服、ステロイド注射などの「薬物療法」を行い、その後、腱板損傷部周辺の筋肉を鍛えたり、肩の動きを改善させるためのリハビリテーションを行います。
これまでは内視鏡を使わずに、皮膚を切り開いて行う手術が一般的でしたが、正常な筋肉をはがして手術を行うので、健康な筋肉組織まで傷つけるというデメリットがありました。
そのため、最近では内視鏡を用いた関節鏡下手術による腱板修復術を行っています。
4~5ヶ所ほどの小さな穴を空けて、内視鏡や手術器具を挿入して、断裂した腱を繋げます。最小限の範囲にしか侵襲しないため、痛みが少なく手術後の創痕もあまり目立たないという特長があります。
また、加齢に伴い発症リスクが高まる「腱板損傷・腱板断裂」は、高齢になればなるほど手術のリスクも高まりますが、関節鏡下腱板修復術は一般的な手術に比べて手術による負担も少ないというメリットもあります。