症例一覧
てんかんについて

てんかんとは

てんかんは、脳の神経細胞に突然激しい電気的な乱れが発生して、一時的に意識消失やけいれん発作を繰り返す病気です。

てんかんを患っている方は全年齢で100人にほぼ1人、患者数は国内で100万人程度と推定されています。乳幼児や思春期に限って発症する病気ではなく、脳炎・頭部外傷・脳血管障害・脳腫瘍などが原因となり、どの年齢でも発症する可能性があります。近年では65歳以上の高齢で初めて発症する患者さまが急増し、高齢者による交通事故の一因にもなっています。

”遺伝や精神知能障害を生じる厄介な病気”という誤ったイメージがあるてんかんですが、大部分の方は正しい診断と適切な投薬によって発作が完全にコントロール可能で、自動車の運転はもちろん、就業、出産を含めて支障なく社会生活をおくることができます。

症状

代表的なてんかんの症状は以下の通りです。

大発作(強直・間代発作)

てんかんの異常波が急速に脳全体に広がることで、突然意識を失って倒れてしまう発作です。うなり声とともに体をのけぞらせ、全身や両手足が硬直する強直発作を生じ、その後にガクガクと震える間代発作が特徴的です。全年齢でおこりうる発作で、多くの人が一般にてんかん発作だと認識している代表的な症状です。

ミオクロニー発作

朝の起床後におこりやすく、手足がピクッと動く瞬間的な発作が特徴的です。その際に歯ブラシや箸、コップを落とします。当初は、不注意や落ち着きがないからだと思われて見過ごされますが、その後大発作がおこって初めててんかんと診断されます。思春期前後に発症するのが一般的です。

欠神発作

時々ボーっとして動かなくなる状態が数秒間続き、すぐに普通の状態に戻る発作です。前兆がなく短い意識消失が日に数回から数十回も出現しますが、本人は発作がおきていることを自覚しません。家族や学校の先生など、周囲の方によって初めて指摘されます。4歳以降、小学生の低学年をピークに発症します。

複雑部分発作

急にボーっとして会話や動きが止まり、呼びかけに反応がなく、一点を見つめて目をパチパチ、口をモグモグ、手をモゾモゾ動かしたりします(自動症)。発作は数分間続き、完全な意識の回復に時間がかかる場合があります。全年齢において発症しますが、最近では高齢者に発症するてんかんの特徴的な症状として注目されています。本人は発作があったことも発作中のことも全く覚えていませんが、発作時以外は全く正常に行動できますので認知症と間違わないことが大切です。

単純部分発作

運動・知覚・視覚あるいは言語の機能をつかさどる大脳の一部に傷があり、その場所にのみ異常な放電が生じることで起きる発作です。意識消失はありませんが、例えば右手のみが痙攣する、左足のみがピリピリ感じる、変なものが見える、言葉が出なくなるなど、常に同じ部位に同じ症状が急にあらわれます。不眠・疲労・発熱・過度の飲酒などの体調不良の時には大脳全体に異常放電が広がり、複雑部分発作や大発作(強直・間代発作)を生じることもあります。

てんかんの診断

てんかんの分類診断を正確に行い、それぞれの方に合った抗てんかん薬を投与することで速やかに発作のコントロールが可能になります。また、意識消失やけいれんなどの症状から直ちにてんかんと診断するのではなく、他の病気の可能性を見極めることも極めて重要です。

問診

てんかんの診断には、問診を十分に行うことが必要です。意識を失う発作では本人が症状を十分に説明できないので、周囲の方の証言がとても大切です。また、発作の様子をスマートフォン等で撮影した動画は貴重な情報です。診察では医師より詳細な情報が求められるため、事前に発作の情報を整理しておくと診療もスムーズです。

診療の際に医師が確認したいてんかん発作時のポイントは、右図を参考にしてください。

検査

頭部MRI/CT

てんかんを生じる焦点(脳腫瘍・脳血管腫・脳皮質形成異常・脳血管障害・外傷・脳炎後の瘢痕など)となる脳病変の有無を確認する検査です。

脳波

てんかんや脳機能障害を示す脳波異常の検出を行います。初回の脳波検査で異常を認める確率は半分以下のため、診断を確定させるために検査を何度か行うことがあります。

長時間ビデオ脳波モニタリング

外来での脳波検査で診断が確定できない場合に行う検査です。入院のうえ数日間連続して脳波とビデオ録画を同時に行います。てんかんの種類によっては、覚醒時よりも睡眠時に脳波異常をとらえる可能性が高くなります。記録中にてんかん発作がおきれば、脳波異常と共に発作の様子をビデオに同時記録できるため診断の確定と今後の治療法の決定に役立ちます。

高齢者に増えるてんかん

高齢になって初めて発症するてんかんが近年増加し、交通事故をおこしたり、認知症との鑑別の面からも注目されています。高齢者のてんかんは、原因(脳血管障害後の瘢痕、脳腫瘍、認知症に伴うものなど)が分かっているものが半数~2/3を占めています。

発作の際は全身けいれんをおこすこともありますが、単純部分発作や複雑部分発作などの目立たないものが多いため、周囲が気付きづらいという特徴があります。

  • ボーとしていて、声をかけても返事しないことがある
  • 口をモゴモゴ、手をモゾモゾ 意味不明の動作が数分間続く
  • 時々記憶が途切れているようだが、本人は自覚していない
  • 自動車をこすったり、ぶつけたりするが、本人は気付いていない
  • でも普段は元気で、しっかりしている

上記のような症状がある場合は、認知症だと決めつけずに医療機関を受診するようにしましょう。高齢者のてんかんは適切な投薬で比較的容易に症状が消失するので、まずは専門医の診察を受けることが大切です。

家族や自身の運転に不安を感じ始めたら

運転中や危険な場所でてんかん発作がおこると命の危険が伴うこともあります。お手軽に技能面・認知面から安全運転ができるかどうかを診断できる「あんしん運転診断」、脳の状態までしっかりと調べる「運転ドック」の2つのコースで運転支援を行っています。てんかんや認知症の症状を感じ始める前に1度受診することもおすすめです。

治療

薬物療法

てんかんの診断を正確に行ったうえで、以下の2つの分類(焦点性てんかん・全般てんかん)に応じた抗てんかん薬を用います。年齢・性別(特に妊娠、出産を希望される女性)・体質・現在内服中の薬との飲み合わせにも考慮しながら薬の選択を行います。

また、発作が生じる原因として薬の飲み忘れと生活環境の乱れが挙げられます。毎日規則正しく薬を飲み続けて体内の薬の濃度を常に安定させることや、睡眠不足、疲労の蓄積、過度の飲酒などによる体調不良にも留意することが大切です。

焦点性てんかん

脳の一部に傷があり、その傷(脳腫瘍・脳血管腫・脳皮質形成異常・脳血管障害・外傷・脳炎後の瘢痕など)がてんかんの焦点となって発作をおこします。単純部分発作や複雑部分発作がその代表です。

全般てんかん

脳波の乱れが急速に脳全体に広がる発作で、発作の焦点となる傷は特定されません。欠神発作、ミオクロニー発作と大部分の大発作が全般てんかんにあたります。

最初に投与された薬で発作が消失せず、結果的に多くの薬を内服している方が見受けられます。2剤目の薬で発作がコントロールできない場合は、診断の誤りや薬剤抵抗性てんかんの可能性が考えられます。脳神経外科 大西寛明医師(毎週木曜診療)をはじめとする日本てんかん学会てんかん専門医にご相談ください。

外科治療

適切な薬物治療にも関わらずてんかん発作がコントロールされず、日常生活や仕事に支障が生じている方(薬剤抵抗性てんかん)には外科治療が検討されます。特に小児の場合、頻繁なてんかん発作は脳の発達障害が生じるので、早い段階での外科治療が推奨されています。代表的な手術として、以下のような方法があります。

てんかん焦点切除術

頭蓋内のてんかん焦点を特定し、外科的に切除することで発作の消失が期待されます。側頭葉てんかんを生じる海馬硬化症は薬剤抵抗性てんかんの代表ですが、焦点切除術の有効性は80%前後です。海綿状血管腫、MRIで検出可能な限局性皮質形成異常も切除術の良い適応です。

脳梁離断術

転倒を繰り返し頭部外傷などを生じる失立発作や重症の大発作に対して行われる手術です。右脳・左脳を連結している脳梁を離断することによって、発作を生じる脳波が一気に脳全体に広がることを抑え、発作が軽くなります。治癒を目的とする焦点切除術に対して、この手術は症状の軽快を目的にする緩和的治療です。

迷走神経刺激療法

電気刺激装置を頚部から上胸部に植え込み、左頚部迷走神経を間欠的に刺激することで薬剤抵抗性てんかんの発作を減少、軽減させる治療です。術後から徐々に発作が減少し、2年後には約半数の方に発作の軽減や日常生活に明らかな改善が認められます。発作の完全消失は4~8%程度で、脳梁離断術と同様の緩和的治療ですが、体に負担が少ない術式なので欧米のみならず日本でも急速に治療件数が増加しています。

公的支援について

てんかんによる収入の減少や定期的な通院は家計の負担になりますが、医療費助成として障害者自立支援法による通院公費負担制度があります。この制度は病気の程度に関わらず、全てのてんかん患者に対して薬剤や検査を含む外来での医療費が1割負担に軽減されます。また、重度の場合は障害の程度に応じて医療費助成や年金制度などもあるので、お住まいの市区町村にご相談ください。

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