痔とは
痔とは肛門と肛門周辺の病気の総称で、日本人の3人に1人が患っていると言われています。
痔にもさまざまな種類が存在しますが、主に「痔核（いぼ痔）」、「痔ろう（あな痔）」、「裂肛（切れ痔）」の3種類に分類されます。
最も多いのが「痔核（いぼ痔）」で、全体の半数を占めます。次いで「裂肛（切れ痔）」が多く、女性の患者さまが多いという特徴があります。それとは逆に「痔ろう（あな痔）」は、男性患者さまが多いのが特徴です。
いずれの痔も、少々の痛みの場合は我慢してしまい、そのまま放置してしまっている方がいるのではないでしょうか？痔を放置すると症状が悪化するだけでなく、痔かと思っていたら大腸がんやポリープなど、重大な病気だったということもあります。
そのため、少しでも異変を感じた場合は悩まずに受診することが大切です。
痔核（いぼ痔）
肛門にいぼ状の腫れができた状態をいいます。肛門の皮膚と直腸の境目である歯状線（しじょうせん）よりも内側にできるものを「内痔核」、歯状線より外側（肛門の上皮）にできるものを「外痔核」と呼びます。
内痔核
内痔核は知覚神経（痛みを感じる神経）がない直腸側にできる痔核で、初期症状では痛みを感じることはありません。
症状
主な症状は排便時の出血です。初期は痛みがないことから、トイレットペーパーに血が付くことで気づく方も多くいらっしゃいます。病状が進行すると、排便時の出血だけでなく、いぼが肛門から飛び出した状態（脱出）による炎症や痛み、かゆみ、腫れなどの症状が現れます。また、症状が深刻になると、指で押し込んでも痔核が肛門内に戻らず、手術などが必要になる場合があります。
なお、内痔核は進行レベルによって4段階に分類されます。
| 内痔核Ⅰ度 | 排便時に出血はあるが痛みはなくいぼ痔も肛門の外に出ない。 （出血はトイレットペーパーにつく程度から便器が赤くなる場合まであり。） | いぼ痔が肛門の中にある状態で軽度ですが、進行前に受診しましょう。 |
|---|---|---|
| 内痔核Ⅱ度 | 排便時、いぼ痔が肛門の外に出てくるが、排便後は自然と元に戻る状態。痛みや残便感を感じる時がある。 | 少し症状が進行していますので、受診をおすすめします。 |
| 内痔核Ⅲ度 | （排便時）、いぼ痔が肛門の外に出て、指で押し込まないと戻らない。出血も多く、しばしば腫れや強い痛みを感じる。 | 症状がかなり進行していますので、早急に受診をしましょう。 |
| 内痔核Ⅳ度 | いぼ痔が肛門の外に出たままで、指で押しても戻らなない。腫れや激しい痛みを感じる。 |
原因
肛門に対して過度の負担がかかることで内痔核になりやすいと言われています。排便時にいきみすぎたり、下痢が長く続いたり、長時間同じ体勢で座り続けることや出産時のいきみによっても発症する方がいます。
治療
進行度Ⅰ度及びⅡ度の場合は軟膏や坐剤による薬、入浴などで温め循環を良くするなど、生活習慣の改善によって治癒するケースがほとんどです。進行度Ⅲ度以上の場合や排便時に出血が続いて日常生活に支障をきたすほどになると、注射療法（硬化療法）や手術によって治療を行います。
外痔核
皮膚と直腸の境目（歯状線）より外側できる痔核で、初期から痛みと出血を伴う場合があるのが特徴です。
症状
肛門の周りに硬いしこりができ、初期から激しい痛みと出血を伴う場合があります。また、トイレットペーパーなどで肛門周囲を触れると痛みを強く感じます。さらに、椅子に座ることでも痛みを感じることがあり、日常生活に大きな支障が出る場合もあります。
原因
下痢や便秘の方によく見られる傾向で、排便時にいきみすぎたり長時間椅子に座りっぱなしになっているなど、肛門に負荷をかけてしまうことで、肛門の血液循環が悪くなります。そうすると静脈がうっ血して腫れあがり、外痔核が発症します。このほかにも冷えやストレス、アルコールや香辛料の過剰摂取も原因の一つとされています。
治療
通常は軟膏や坐薬を使用することによって症状が和らぎます。強い痛みを伴う場合や出血が多く日常生活に支障をきたす場合は、手術によって切除する場合があります。
痔ろう（あな痔）
肛門にある小さなくぼみ（肛門小窩）から細菌が入り込むことで肛門腺が化膿し、その炎症が肛門周囲に広がって膿がたまり、肛門内から外の皮膚側まで膿の出る穴ができた状態を痔ろう（あな痔）といいます。クローン病の合併症の場合もあるので、特に若年層での発症には注意が必要です。女性よりも男性に多く見られます。
症状
- 発熱
- 激しい痛み
- 腫れ
- 膿が出ることによる下着の汚れ
などの症状がみられます。また、膿の出口がふさがり、再び膿がたまることを繰り返すことで複雑なタイプの痔ろうになることもあります。自然に治ることがなく、徐々に悪化することもあるので、治療が必要になります。
原因
一般に男性が発症する割合の方が多く、主な原因は、肛門にある小さなくぼみ（肛門小窩）から細菌が入り込んでしまうことです。生活習慣においてはストレスや下痢、肥満、アルコールの過剰摂取、喫煙が原因の一つとされています。
治療
痔ろうの治療は、うみを出す手術を行い、再感染しないように抗生剤を使います。痔ろうが発生する位置やタイプによってもさまざまな手術の方法があるため、症状に応じた術式を選択して根治を目指します。
裂肛（切れ痔）
肛門の上皮が切れた状態を裂肛（切れ痔）といいます。排便時に痛みと出血を伴うことが特徴で、女性がなりやすいとされています。また、排便時に痛みを伴うことから、排便を我慢することで便秘になり、症状を悪化させてしまうこともあります。慢性化すると潰瘍やポリープ、肛門狭窄といった合併症を併発することもあるので早期に治療をすることが大切です。
症状
- 排便時の痛み
- トイレットペーパーに少量の血が付着
- 排便後しばらく痛みが続く
- 便が細くなる
などの症状がみられます。切れ痔を繰り返すことで慢性化し、肛門潰瘍、肛門狭窄、肛門ポリープなどの合併症を起こすことがあり、稀に手術が必要になる場合があります。
原因
硬い便を排泄する際に、歯状線と肛門の間に存在する上皮が裂けてしまうことで、裂肛（切れ痔）を発症することが主な原因で、無理なダイエットや体質、妊娠が関連して便秘になりやすい女性が発症しやすいとされています。また、便秘だけでなく下痢が関連することで裂肛（切れ痔）を発症する場合もあります。
治療
排便のコントロールや食物繊維に富んだ食事を心がけたりするなどといった生活療法を中心に、坐薬や軟膏による補助的な薬物療法を行うことでほとんどの方が改善します。ただし、慢性化することで肛門が狭くなってしまったりすると、手術が必要になる場合があります。
リスクの軽減
排便時の負担を減らす
強くいきみすぎず、無理に出し切ろうとしないことが大切です。また、排便後にはウォシュレットをするなどして清潔な状態を保ちましょう。
食物繊維の摂取を心がける
食物繊維は腸内で水分を吸収して膨らみ、便を柔らかくする効果があり、腸の運動を高めてくれます。ただし、食物繊維を摂りすぎると下痢になる可能性もあるので、下痢気味の方は消化のよい食事を心がけましょう。
ゆっくりとお風呂につかる
入浴時には、10～15分ほど湯船にゆっくりと浸かり、おしりを温めるようにしましょう。おしりを温めることでうっ血が改善され、痔核（いぼ痔）の症状を和らげることが期待できます。ただし、痔ろう（あな痔）の場合は症状が出たら「患部を冷やす」ことで症状を緩和させることが必要ですので、医師の診断を元にケアすることが大切です。
同じ姿勢を取り続けない
同じ姿勢で座り続けたり経ち続けたりすると、肛門がうっ血しやすくなります。時々休憩をとったり軽く体操したりすると良いでしょう。