当院では、前立腺がんへの放射線療法の際に直腸への影響を低減させるための「ハイドロゲルスペーサー(SpaceOAR)」留置を行っています。
前立腺がんに対する放射線療法について
前立腺がんの治療は、手術療法や放射線療法、内分泌療法など、患者さまの病状にあわせて単一または複数の治療方法を組み合わせて選択します。
放射線療法は、前立腺がんに対する根治治療として手術療法に並ぶほど定着している治療方法です。しかし、前立腺に隣接している直腸にもある程度の放射線がかかってしまうため、排便回数の増加や下痢、直腸出血など、軽度な症状から一部は治療が必要なものなど、副作用が出る可能性が少なからずあります。
ハイドロゲルスペーサー(SpaceOAR)留置
隣接する前立腺と直腸の間にハイドロゲルを入れ、距離を拡げることにより直腸への被曝を低減できるのがハイドロゲルスペーサー留置です。
このハイドロゲルは、前立腺と直腸の間のスペースを約3カ月間維持し、その後6カ月~12カ月で体内に完全に吸収されます。ハイドロゲルはポリエチレングリコールと水でできており、安全性が高いため医療機器や化粧品、医薬品など幅広く使用されています。このゲルを挿入することにより、軽症の直腸障害は75%、中等症の直腸障害は100%低下すると報告されています。また、このスペーサー留置は2018年6月より保険適用となっています。
対象となる方
一部の方を除き、前立腺がんに対する放射線療法を受ける全ての方が原則対象となります。
ただし、前立腺と直腸間に強い癒着が認められる場合や前立腺背側の被膜外浸潤、直腸周囲への浸潤が認められる場合は禁忌とされており、全身状態が悪くリスクが高いと判断された方には使用できない場合もあります。
副作用
副作用として、会陰部の痛みや不快感、血尿、血便、感染、アレルギーなどの報告がありますが、ごく軽度なものを含めて発生頻度は10%以下とされています。
留置の流れ
1
針の位置決め
肛門から経直腸超音波プローブを挿入し、超音波画像を確認しながら会陰部(陰嚢と肛門の間)から針を刺します。直腸周囲脂肪組織まで針を進め、位置を決定します。
2
生理食塩液の注入
少量の生理食塩液を注入し、直腸壁との間に水空間をつくります。
3
ハイドロゲルの注入
ハイドロゲルスペーサーSpaceOARを注入し、注射針を引き抜きます。
認定制度
ハイドロゲルスペーサーSpaceOARを使用するには、Boston Scientific Corporationが指定するトレーニングプログラムを終了し、同社の認定を受けることが必要です。当院の泌尿器科医師は認定医です。