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インスリン抽出成功から100年

内科,糖尿病・代謝内科2021.06.07

世界で初めてインスリンの抽出に成功してから、今年で100年を迎えます。インスリンは20世紀最大の発見のひとつであり、糖尿病治療が大きく進歩したことでたくさんの糖尿病患者さんの命を救ってきました。今回は抽出成功から100周年を記念し、インスリンと糖尿病治療の発展についてご紹介します。

糖尿病とインスリンについて

糖尿病とは

食事に含まれる主要な栄養素や炭水化物は、消化されるとブドウ糖として血液に吸収され、血液中から細胞内に取り込まれることで体を動かすエネルギーの元になります。
インスリンと聞くと注射薬や糖尿病の特効薬というイメージがありますが、もとは人や動物の膵臓で作られるホルモンの一種です。インスリンは血液中のブドウ糖を細胞内に取り込む働きをしているため、インスリンの働きが悪くなったり分泌量が減少すると、利用できないブドウ糖が血中に溜まり高血糖状態になります。このように高血糖状態が続くことを糖尿病といいます。

インスリンの必要性

インスリンは生きていくために必要不可欠なホルモンです。インスリンが分泌されず、著しい高血糖状態が続くと意識消失や最悪の場合死に至る可能性があります。そのため、体内でインスリン分泌ができない1型糖尿病は、インスリンが発見されていない時代には必ず死に至る恐ろしい病気でした。

インスリンの歴史

紀元前1550年代の古代エジプトで症状を記したパピルスが存在していたほど、糖尿病は古くから知られている病気です。しかし、その病態は長らく謎のままであり、18世紀になってようやく尿に糖分が含まれていることが明らかになりました。その後、インスリンの抽出が成功したことから、インスリンと糖尿病治療の歴史は大きく動き出します。

インスリンの発見と抽出成功

1889年 インスリンの発見
ドイツの医師オスカー・ミンコフスキーとヨゼフ・フォン・メーリングが、膵臓を摘出された犬の尿が糖分を含んでいることを発見し、糖尿病が膵臓の病気であることを突き止めました。その翌年、フランスのエドワール・ラゲスが、膵臓のランゲルハンス島という組織で血糖を下げていると予測し、その謎の物質をインスリン(insulin、膵島素)と名付けました。

 

 

1921年 インスリンの抽出に成功
インスリンの理論的な予測から約30年後、カナダのフレデリック・バンティングとチャールズ・ベストが糖尿病の犬に膵臓抽出物を投与したところ、血糖が下がることを証明。その後、カナダのジェームス・コリップが膵臓全体からインスリンを抽出する技術を確立しました。

 

 

1922年 1型糖尿病患者へのインスリン投与開始
抽出に成功してからわずか半年程度で、実験的に1型糖尿病患者へのインスリン投与を開始。血糖の降下が確認され、インスリンはすぐに糖尿病治療へ使用されるようになりました。

インスリン純度の改善

初めて人に投与されたインスリンは牛の膵臓そのものを使用していたため、大部分がインスリン以外の不純物でした。ジェームス・コリップがアルコール水溶液の沈殿によってインスリン純度を高めることに成功しましたが、それでも純度は10 %以下であり、高確率で投与者へのアレルギー反応がみられていました。

 

 

1926年 亜鉛結晶化インスリンの完成
アメリカのジョン・ジェイコブ・エイベルが、亜鉛を添加しインスリンの結晶化に成功。純度は10倍以上高まりました。

 

さらに、1960年代半ばには不純物をゲル濾過とイオン交換樹脂クロマトグラフィーで精製する技術が開発され、より高純度のインスリン製剤が作られるようになりました。

インスリン作用時間の改善

亜鉛結晶化インスリンは純度が高い一方で作用時間が短く、1日3~4回の注射が必要でした。当時のインスリン注射は注射器の煮沸消毒や針の太さによる強い痛みなど、手間と苦痛が伴うものでした。

 

 

1946年 中間型インスリンの完成
デンマークのハンス・ハーゲドンが、プロタミンという蛋白質を添加することで持続時間を長くすることに成功。さらに工夫され、安定した亜鉛添加プロタミンインスリンが作られたことで、1946年中間型インスリンが完成しました。

 

その後、1953年にさらに持続時間の長い亜鉛懸濁インスリン、1959年には二相性インスリンが登場しています。

動物インスリンからヒトインスリンへ

発売当初から、インスリンはウシやブタなど家畜動物の膵臓から抽出した「動物インスリン」が使用されてきました。また、家畜動物が少なく、第二次世界大戦によって輸入制限があった日本では、マグロやカツオ、クジラなどの魚からインスリンを抽出したこともありました。

 

純度や作用時間の改善によって完成の域に達していたインスリンですが、動物インスリンではアレルギー反応が無くならないこともあり、ヒトインスリンを求めて人工的な合成が試されるようになりました。

 

 

1953年 インスリンのアミノ酸配列を解明
イギリスのフレデリック・サンガーがヒトインスリンのアミノ酸配列を解明、インスリンの51個のアミノ酸のうち、ウシで3つ、ブタで1つのアミノ酸配列がヒトインスリンと異なることを示しました。

 

 

1978年 ヒトインスリンの合成に成功

ブタインスリンから生化学的にヒトインスリンを合成することに成功しましたが、同年遺伝子工学的な生合成も成功、1983年にヒトインスリン製剤が発売されました。

 

 

ヒトインスリン完成後も開発は留まるところを知らず、続いて自然界には存在しないインスリンの開発が始まりました。1995年にアミノ酸2個を置き換えた超即効型、2001年にアミノ酸1個置換及び2個不可することによって、懸濁ではない長時間作用のインスリンが発売され、より生理的なインスリン分泌を再現できるようになりました。

インスリンや糖尿病治療の進化は現在も続いています。患者さん一人ひとりのライフスタイルにあった治療ができるように、作用時間の長期化、血糖値測定やインスリンポンプへのIoT活用など、さまざまな試みが続けられています。

インスリン注入デバイスの進歩

最初のインスリン製剤が発売された頃は、ガラスの注射器と鉄の注射針でインスリンを注射していましたが、煮沸消毒や針を研ぐなど患者さん自身で器具の手入れが必要であったり、注射針の太さによる痛みなど多くの問題点がありました。また、日本では1981年に法律的に認められるまで自己注射は違法行為であったため、糖尿病患者さんが通常の社会生活を送ることはとても難しいことでした。

しかし、1985年に現在のようなペン型注入器が発売(日本では1988年に発売)されたことや、自己注射が法的に認められたことで利便性は向上し、ライフスタイルにあわせた治療を行えるようになりました。現在では、力の弱い方や目の不自由な方でも簡単に注射ができたり、痛みをほとんど感じない極細の注射針が開発されるなど、より使い勝手のよいデバイスとなるよう改良が続けられています。

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