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心不全について

内科,医療・健康情報,循環器内科2021.04.26

心不全とは

心臓のポンプ機能が低下することで、心臓から脳・腎臓・肝臓等全身に必要量の血液を送り出すことができなくなった状態を「心不全」といいます。全身への血液循環が滞るため、心臓だけでなく他の臓器にも異常が起こります。

「心不全」とは病気そのものの名前ではなく、心筋梗塞や心臓弁膜症、心筋症などさまざまな心臓疾患や高血圧などによって負担がかかった状態が続くことによって最終的に至る症候群です。

その中で、症状が急速に出現・悪化したものを「急性心不全」、長期間にわたって症状があり、徐々に進行していく状態を「慢性心不全」といいます。

症状

心不全の症状や徴候は軽症のものから命に関わるものまで幅広くあります。また、心臓には肺から返ってきた血液を全身に送る左心系と、全身から返ってきた血液を肺に送る右心系に分かれており、「左心不全」と「右心不全」とで症状も異なります。また、進行することで両方が機能しなくなる「両心不全」になる場合もあります。

左心不全の症状

左心不全では、左心機能の低下によって肺に血液が滞ったり、全身に送り出す血液の量が少なくなることで、主に下記の症状が現れます。

  • 胸の不快感・しめつけ感
  • 手足のむくみ・冷え
  • だるさ
  • 動悸
  • 息切れ
  • 疲れやすい
  • 意識障害
  • 乏尿(尿の量が1日400ml以下になる)
  • 息苦しさなどの呼吸障害

右心不全の症状

右心不全では、肺へ送り出す血液の量が少なくなり、心臓に返ってきた血液を充分に受け入れることができなくなります。その結果、静脈に血液がたまってしまうことで、主に下記の症状が現れます。

  • 顔や手足のむくみ
  • 息切れ
  • 息苦しい
  • 横になると苦しい
  • だるさ
  • 肝機能障害
  • 腹部の腫れ(腹水貯留)
  • 食欲不振
  • 吐き気
  • 便秘
  • 体液貯留による体重増加

収縮機能、つまりポンプで血液を送り出す機能が低下することに伴って、全身の臓器に十分な血液が行き渡らないことから起こる症状と、拡張機能、つまり全身の血液が心臓に戻る機能が弱くなり、血液がうっ滞することによって起こる症状があります。ポンプ機能低下による症状としては、疲労感、不眠、冷感などがあり、血液のうっ滞による症状には、息切れ、呼吸困難、むくみ(浮腫)などがあります(図4)。最初のうちは、階段や坂道などを登ったときに息切れする程度ですが、進行すると、少し歩いたり、身体を動かしたりするだけでも息苦しくなります。そして、もっと悪化すると、安静にしていても症状が出るようになり、夜中、寝ているときでも咳が出たり、息苦しさで寝られなくなることもあります。こうした症状は、身体を起こした姿勢だとよくなるのが特徴で、こうした「起座呼吸」まで進んでしまうと即入院が必要です。また、心不全の進行に伴って、不眠症や疲れやすいといった全身症状にも悩まされるようになります。

原因

心臓のポンプ機能低下をきたす疾患が心不全の一般的な原因となりますが、睡眠時無呼吸症候群、糖尿病、重度の貧血、甲状腺機能亢進症、肺気腫などの疾患も心不全の原因となることがあり、原因は多岐にわたります。

悪化の要因

心不全の原因となる疾患に、心臓に負担のかかる様々な増悪因子が重なることで心不全症状が現れます。たとえば、

  • 薬の飲み忘れ・中断
  • 塩分・水分の過剰摂取
  • ストレス、不眠
  • 喫煙、過度の飲酒
  • 疲労
  • 感染症(かぜ、インフルエンザなど)
  • 血圧の上昇
  • 貧血
  • 腎不全
  • 脈の乱れ(脈が速くなる、脈が遅くなるなど)

などがそれにあたります。特に、薬の飲み忘れ・中断、塩分・水分の過剰摂取、ストレス、不眠には注意が必要です。

日常生活で気をつけること

心臓の健康状態を改善させるため、次のような生活を心がけることが健康への第一歩となります。

禁煙

喫煙は血管を収縮させるとともに動脈硬化を進行させる恐れがあるので、禁煙を心がけましょう。

健康的な食事

塩分の過剰摂取や過度の飲酒もよくありませんので、バランスの良い食生活を心がけましょう。

高血圧・脂質異常症の改善

高血圧(高血圧)や高コレステロール血症も発症要因のひとつとされていますので、これらの診断をされたことがある方は生活習慣の見直しや治療を行い、血圧とコレステロール値を管理することが大切です。

高血圧について
脂質異常症について

適度な運動

過度な運動は心臓に負担をかけるため制限する必要がありますが、運動不足は肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧といった生活習慣病の要因となるほか、筋力や体力が低下することによって心不全の再発を引き起こしやすくなります。医師と相談のうえ、適度に運動をするようにしましょう。

ストレス解消

ストレスは交感神経を緊張させ、血液中のコレステロールの増加や血管収縮を招き、動脈硬化を促進させます。ストレスの原因が明確であればできる限り避けるなどするほか、リラックスできる方法や環境を見つけ、ストレスを軽減させましょう。

治療

生活・食事療法

上記(日常生活で気をつけること)で挙げたものを意識することで生活の質(QOL)の向上が得られる可能性があります。運動の程度に関しては患者さんの病状によって異なってくるので、主治医とよく相談しながら行うことが大切です。

薬物治療

心不全は1度発症すると完全に治ることはなく、長い時間をかけてどんどん進行していきます。そのようなことも鑑みて、治療の目的は大きく2つあります。1つは症状を改善し、生活の質(QOL)を向上すること。2つは予後の改善、つまり悪化をできるだけ抑えることです。

たとえば、過剰なホルモンの働きを抑え、心臓を保護するための「アンギオテンシン変換酵素阻害薬」、「アンギオテンシンII受容体拮抗薬」、心臓の負担を軽くする「β遮断薬」、体内の水分を取り除き心臓を楽にする「利尿剤」、心臓のポンプ作用を強め心臓の働きを手助けする「強心薬」など、心不全の原因をはっきりさせたうえで、それぞれの症状に応じた点滴治療、内服薬による治療を行います。

植え込み型装置(ペースメーカー)による治療

重症の心不全のうち、心室の動きがいびつ(心室同期障害)になっている方に対しての「心臓再同期療法(CRT)」、致死性不整脈による突然死の危険がある方に対しての「植え込み型除細動器(ICD)」と目的に応じた治療を行います。また、心室同期障害と、致死性不整脈の両方に対しての対処が必要な場合は、CRT、ICD両方の機能を兼ね備えた「両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)」による治療を行うこともあります。

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教えてくれた医師

石瀬 久也
【内科、循環器内科】

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